某芸術大学の油絵科を目指して、絵画を勉強していたことがあります。結局、途中で脱落してしまいました。体力の有り余った少年にとって、暗いアトリエで一日中デッサンをしているのは耐えられなかったということが大きな理由です。もっと活動的なことがしたかったと言ってもいいかもしれません。絵画を教える先生は、超難関校である某芸術大学の油絵科出身の人でした。芸術に関しても、才能ということは関係あると思います。私も、その先生に、絵画に取り組む上で、才能が必要であるかどうかを尋ねたことがあります。先生の答えは、まだ絵画を描いていること自体が才能だ、というものでした。確かに、見た物を正確にデッサンできるかどうか、ということよりも、何よりも、絵を描き続けていけなければ、才能も何もあったものではありませんから、なるほど、描き続けていける、ということが何よりの才能なのかもしれません。

様々な分野の中には、達人、と言われる人々がいます。達人の中には、才能云々言う人はぶん殴ってやりたい、とおっしゃる方もいます。そんな言葉は努力を馬鹿にした意見だ、と言うのです。それはそれで、もっともな意見だとは思いますが、学校の勉強でも、速く走ることでも、必ず人によって差が出てきます。どれだけ勉強したか、どれだけ走る練習をしたか、ということでは埋められない差は必ず存在すると思います。人間は一人一人性格が違うように、能力も違います。やはり、見た物を、正確に平面に描いていける能力にも当然生まれ持った差があるでしょう。絵画の先生によると、漫画やイラストは絵とは異なる物だと言うことです。漫画が上手くても、絵が上手いということにはなりません。確かに漫画は非常に上手く、状況や物事のイメージを表していますが、実物の世界にある物質とはかけ離れています。例えば、漫画に描かれたような人間が現実の世界に存在したら、とても人間のようには見えない、何か気持ち悪い生き物に見えるのではないかと思います。先生によると、例えば、世界的に有名な抽象画家なども、実際には驚くほど正確なデッサン力を持っていて、形を崩して絵を描いていても、人間の関節などの骨格は正確に描写されている、とのことでした。

確かに、ある有名な抽象画家が若い頃に描いたデッサンなどは、やはり天才的な上手さがあります。ルネサンス期の彫刻なども、そのまま実物の人間として動き出せるくらい、骨組みも肉付きも正確です。